カラダと心にやさしいアブレーション治療とは



このページでは、「放射線被ばくのないアブレーション」という考え方を紹介しています。

カラダと心にやさしいアブレーション治療とは?

不整脈に対するアブレーション治療。不整脈を治す方法として選択されています。日本国内では1994年から保険診療として行われています。当初はカラダの中のカテーテルの位置を知るためにレントゲンを使用した『透視(体の中を見る)』が使用されていました。透視で放射線を浴びますが、カテーテルの位置情報を得るため必要だから致し方なく使用されていました。医療スタッフは放射線による健康障害を防ぐために鉛入り放射線防護衣(プロテクター)を着用して治療に当たっていました。その後の医療機器の発達により放射線を浴びる透視を使用しなくてもカテーテルアブレーションが行えることが2010年頃から海外から報告されるようになりました。そして2015年アブレーション治療の主たる対象となっていた心房細動に対する透視を使用しないアブレーションの効果と安全性がランダム化比較試験の結果として報告されました

Catheter Ablation of Atrial Fibrillation Using Zero-Fluoroscopy Technique: A Randomized Trial PACE 2015 38, 7 p797-806.

その後、2017年には透視を使用しない頻脈性不整脈に対するアブレーションの5年間にわたる結果が報告されています。

Fluoroless Catheter Ablation of Cardiac Arrhythmias: A 5-Year Experience PACE 2017 40, 4 p425-433.

放射線被曝のないアブレーションは、発ガンリスクを高めず、その心配もない、カラダと心にやさしいアブレーション治療です。

透視を使用しないアブレーションの効果と安全性は確立しています。ですが日本国内での普及は海外に比べて遅々として進んでいません。一つには医療者側のアブレーション治療における放射線被ばくについての確定的影響と確率的影響の認識が不十分な可能性があります。これは『アブレーションの時の放射線被ばくは少なくなってきているから大丈夫』という言葉で明らかになります。確率的影響はガン発生に関わる影響ですが、確率的影響をなくす最良の方法は放射線被ばくをゼロにすることです。放射線被ばくが少なければ少ないほど確率的影響は低くなりますがゼロに勝る効果はありません。海外ではその認識で治療が行われています。医療では放射線被ばくを必要最小限にするために「必要な放射線被ばくのために不要な放射線被ばくはなくす」この考が求められています。この考えを示したものがALARAの原則です。

放射線被ばくはカテーテルアブレーションの「沈黙の合併症」です。

2010年代からカテーテルアブレーションを行うときに透視を使わずに行う方法が報告されるようになりました。その背景には、透視に伴う放射線被ばくが発ガンリスクを高めるため、そのリスクをゼロにしたい医師たちの願いがあります。少量の放射線被ばくは、直ちに健康障害を発生させるわけではありませんが、放射線被ばくから時間が経過してから発ガンという形で健康を損ないます。これを『沈黙の合併症(a silent complication)』と呼んでいます。カテーテルアブレーション時に透視を使用しなければ、放射線被ばくに伴う健康障害リスクは発生しません。

Radiation exposure: A silent complication of catheter ablation procedure   HeartRhythm. 2012 Vol.9, Issue 5, 715-716.

放射線被ばくからどのように身を守れば良いのでしょうか?放射線から身を守る3つのルール

放射線被曝(ひばく)

  • 放射線を浴びることを放射線被曝といいます。
  • 放射線被曝による健康障害について『確定的影響』と『確率的影響』があります。
  • 放射線被曝による確定的影響とは、被曝が一線を越えなければ障害の発生を防げる影響です。白内障や皮膚障害などがあります。
  • 放射線被曝による確率的影響とは、被曝が増えるにつれて障害の発生する率が増える影響です。発ガンや染色体異常が生じます。
  • 確率的影響について安全域lは明らかになっていません。
  • 確率的影響の観点で、放射線被曝が増えるにつれて発ガンリスクが高まります。これが問題です。
  • 放射線は人体に危険ですから、放射線から身を守るために3つの原則があります。
  • 3つの原則とは「行為の正当化」「防護の最適化」「個人の線量限度が示されること」です。
  • 「行為の正当化」とは、「放射線を使って得られるメリットが、放射線を使うことで生じるデメリットを上回るから使っていいよね」という意味です。
  • 「防護の最適化」とは、「そうは言っても放射線は危ないからできるだけ放射線被曝を減らして使いましょう」という意味です。
  • 「個人の線量限度が示されること」とは、「放射線を浴びる量を減らしても、放射線を浴びるのは危険だから限度を決めましょう」という意味です。
  • 特に防護の最適化について「合理的に達成可能な限り低くする」 “ As Low As Reasonably Achivable ” の頭文字をとってALARAの原則と呼ばれています。
  • 放射線被曝は、環境被曝・職業被曝・医療被曝に分けられます。
  • 自然の放射線被曝(環境被曝)は、避けることが困難ですが多くはありません。
  • 仕事での被曝(職業被曝)は、厳格に管理されています。基準を超えた被曝があった場合、その職場から離れなければなりません。
  • 医療における放射線被曝(医療被曝)は、健康のために使う事が前提のため個人の線量限度はありません。
  • そして日本は他国と比較して医療被曝が飛び抜けて多いことが問題視されています。

放射線被ばくは健康障害の原因になります。従来のカテーテルアブレーションでは透視などによる放射線被ばくがあります。放射線被ばくをゼロにして初めてカテーテルアブレーションの効果が最大限発揮されます

放射線被ばくのないアブレーションが国内では2015年から行われてきました。

放射線被曝のないアブレーション

  • 不整脈に対するカテーテル治療のアブレーションでも放射線被曝があります。
  • 海外では放射線被曝の避けるアブレーションが2010年頃から報告されていました。
  • 超音波(エコー)機器の進歩により放射線被曝の回避が行われ、心腔内エコーの出現により心臓の中が全てエコーで見えるようになりました。
  • 心腔内エコーは血管内と心臓内の情報をリアルタイムで観察することができ、それにより透視で観察する以上の情報が得られます。
  • 私たちは超音波検査を活用することで、2015年8月から放射線被曝のないアブレーションを行なってきました。
  • 放射線被曝のないアブレーションは、アブレーションそのものは通常と同じ方法です。違うのは放射線を全く浴びない点にあります。
  • 2020年、米国不整脈学会誌「HeartRhythm」に放射線被曝のないアブレーションは究極のゴールの一つであると述べられています。
  • アメリカでは既に放射線被曝のないアブレーションは普及期に入っています。
  • 日本でも今後、放射線被曝のないアブレーションが当たり前の方法として行われるようになることが予想されます。

カラダと心に優しい治療があります

放射線被曝ゼロのアブレーションへの取り組み

カテーテルアブレーションは、放射線被曝という“沈黙の合併症”を抱えている」。
私は2012年、この言葉に初めて出会いました。
それまでの私は「カテーテルアブレーションは、透視(レントゲンで体の中を映し出す技術)を使いながら行うのが当たり前」だと思っていたので、この言葉は衝撃でした。

カテーテルアブレーションは、心臓の中にカテーテルという細い管を入れ、異常な電気信号の通り道を焼いて治療する方法です。
この治療の際、医師やスタッフは必ず放射線防護具(鉛入りのエプロンや眼鏡、首を守るプロテクター)を身につけています。
なぜなら、放射線被曝にはリスクがあるからです。

実際、2018年には「カテーテル治療に携わる医師の放射線を浴びる側の頭や首に、がんの発症率が高い」という報告があり、医師たちの防護はさらに強化されました。
病院のホームページなどで治療中の写真を見ると、医師たちが重装備で放射線から自分の体を守っている様子がわかるでしょう。

しかし――
患者さんは、放射線から守られていないのです。
「なるべく浴びないように気をつけます」という言葉はあっても、直接的な防護はされていません。

「このままでいいのだろうか?」
2012年、私は自問し始めました。
あの「放射線被曝という沈黙の合併症」という言葉が、ずっと心に引っかかっていたのです。
どうすれば患者さんの放射線被曝を減らせるのか。
試行錯誤の末、行き着いた答えは、「放射線被曝ゼロ」をゴールにすることでした。

そして2015年8月。
ついに私は、「放射線被曝ゼロ」のカテーテルアブレーションを実現しました。

しかし、その成果に対して周囲のアブレーションに携わる医師の反応は冷ややかでした。
「なんでそんなことをするの?」
「私はそんなやり方、絶対しない」
「今までの方法で何も困っていない」
「私の治療では放射線被ばくは少ない、3分間しか浴びせない」

私は「患者さんの安全のため」に行った取り組みが理解されない現実に、心が折れそうになりました。
「意味がないのだろうか」――
そんな時、治療に使う機器メーカーの方が見学に来られ、帰り際にこう言ってくれたのです。

「私は、いいと思います。」

その一言に救われました。
周囲の医者の評価を求めてこの治療をしているのではない。これは患者さんのためになる治療だ。続けよう。
そう心に誓い、私は放射線被曝ゼロのアブレーションを続けました。

しかし挑戦には、さらなる壁がありました。
「従来の方法と違うのは、安全ではないのでは?」
そんな声もありました。

私は「どうすれば周囲に“安全だ”と理解してもらえるか」工夫を重ねました。
データを集め、方法を改良し、発表を重ねました。
その成果は、アメリカ不整脈学会やヨーロッパ不整脈学会での報告につながりました。

あれから10年が経ちます。
海外では放射線被曝ゼロのアブレーションが普及期に入り、日本でもこの方法を行う医師が少しずつ増えてきました。
ただし、この方法は「技術の習得」が必要です。

ですが私は確信しています。
この技術は、患者さんのための技術です。
この技術が広まることは、治療を受ける患者さんにとっても、治療に携わる医師やスタッフにとっても、良い結果をもたらします。
それは間違いなく、医療の進歩のひとつだと私は信じています。

放射線被曝のないアブレーションはみなさんに恩恵をもたらします

放射線被曝のないアブレーションについて海外から多数の行われていますが、日本からは私のグループと東大病院のグループから2本の報告があります。

Zero‐fluoroscopy ablation for cardiac arrhythmias: A single‐center experience in Japan J Arrhythm. 2021 Oct 9;37(6):1488–1496. doi: 10.1002/joa3.12644

Fluoroless and contrast-free catheter ablation without a lead apron in routine clinical practice Sci Rep. 2020 Oct 13;10:17096. doi: 10.1038/s41598-020-74165-y

放射線被曝のないアブレーションはどこで行われているのか?

当研究所では、放射線被ばくのないアブレーションが普及し、国内のどこでも放射線被ばくなくアブレーション治療を受けられることが理想と考えています。
しかし現時点では、そのような治療を提供している施設や医師の全体像は十分に把握されていません。

当研究所代表の川上は、2015年より放射線被ばくのないアブレーションを開始し、すべての頻脈性不整脈を対象として、この治療を継続して提供しています。

「日本の不整脈外来」で紹介されている施設において、放射線被ばくのないアブレーションが行われているかについては、各施設へ直接お問い合わせいただくか、当研究所のLINE公式アカウントよりご相談ください。

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