医療は、私たちが健康に過ごすための大切な支えです。
「過ぎたるは及ばざるが如し」という言葉があるように、
健康を守るためには、何事にもちょうどよい加減が求められます。
これは、医療で使用される放射線についても当てはまります。
病気の診断や治療に役立つ一方で、
放射線には「医療被ばく」という側面があることも、知っておく必要があります。
このページでは、医療被ばくについて解説しています。
医療被ばくとは?
医療被ばくは「検査治療を受ける方が自身の診断や治療のために受ける被ばく」のことです。
放射線被ばくは、「放射線を浴びる経路」、「放射線を浴びる人」、および「放射線を浴びる状況」によって一般的に分類されます。
放射線を浴びる経路による分類
| 分類 | 定義 | 実際の例 |
| 外部被ばく | 体の外部にある放射線源から放射線を受けること。 | 医療用X線撮影、宇宙線(飛行機搭乗など)、大地からの放射線。 |
| 内部被ばく | 放射性物質を体内に取り込み、体内から放射線を受けること。 | 呼吸による放射性物質の吸入、飲食物の摂取、傷口からの侵入。 |
放射線を浴びる人による分類
| 分類 | 定義 | 実際の例 |
| 職業被ばく | 仕事において放射線を扱う過程で受ける被ばく。 | 放射線技師、原子力発電所の作業員、非破壊検査員。 |
| 医療被ばく | 検査治療を受ける方が自身の診断や治療のために受ける被ばく。 | CT検査、バリウム検査、がんの放射線治療。 |
| 公衆被ばく | 上記2つ以外の、一般の人々が生活の中で受ける被ばく。 | 自然放射線(ラドン等)、過去の核実験の降下物、原子力施設からの放出物。 |
放射線を浴びる状況による分類
この分類には計画・緊急時・現存の3つの区分があります。
医療被ばくは、検査治療を受ける方が自身の診断や治療のために受ける外部被ばくです。
身の回りの被ばく
身の回りにも放射線はあります。
そのため普通に生活していても放射線被曝はあります。
医療被ばくとの違いを見てみましょう。

医療被被ばくは自然放射線と人工放射線のうち、人工放射線による放射線被ばくです。
これはどの程度の被ばく量なのでしょう?日本の状況はどうなのでしょうか?

日本では医療被ばくが世界平均の4倍以上の被ばく線量であることが報告されています。
人工放射線と自然放射線の被ばく線量の比較を見てみましょう。

人への健康影響が確認されている被ばく線量は、100ミリシーベルト以上であると考えられています。(環境省 放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料 令和6年度版)
職業被ばくについては線量限度が設定されています。
- 1年間で 50ミリシーベルト
- 5年間で 100ミリシーベルト
線量限度を超えると労働安全衛生法(電離放射線障害防止規則)などに基づき、厳格な就労制限と健康管理措置がとられます。その業務に従事することが禁止されています。線量限度を超えた者は、原則として「新たな被ばくを伴う業務」を継続することができません。
医療被ばくには線量限度はありません。これは線量限度を設けることにより、診断や治療に制限がかかることを避けるためです。
医療被ばくの健康への影響
それでは医療被ばくはカラダにどのような影響を及ぼすのでしょうか?

放射線被ばくの影響は、確定的影響と確率的影響があることを知る必要があります。
- 確定的影響:影響がでるラインがある
- 確率的影響:影響がでるラインがない
ではどのくらいの時間経過で影響が出るのでしょうか?

確率的影響のがん・白血病・遺伝性疾患は晩発影響(放射線被ばくから数ヶ月以降に出現)が特徴です。
医療被ばくには線量限度がない
医療被ばくには線量限度がありません。これが、職業被ばく(放射線関連業務に従事する人は年間50ミリシーベルト、5年間で100ミリシーベルトを超えるとその業務に就けなくなる)と医療被ばくが違う点です。
治療を受ける人・治療を提供する人が、同じ空間にいて医療が行われる中で、医療を受ける方は医療被ばく、医療を提供する医療スタッフは職業被ばくという違いがあります。
WHO(世界保健機関)は医療被ばくについて次のように述べています。「実施の正当化と防護の最適化は、医療における放射線防護の二大柱であり、それらは『良質な医療(グッド・メディカル・プラクティス)』という概念に組み込まれています。しかし、医療従事者はこれらの原則に精通しているとは言えず、特に正当化という側面における放射線防護への意識は低いのが現状です。医療現場における放射線防護文化を向上させるためには、放射線防護の専門家コミュニティと医療コミュニティとのより強固な連携が必要とされています。」
実際の医療現場で確定的影響と確率的影響の違いが理解されておらず、実施の正当化と防護の最適化のバランスが十分とはいえない現状です。
医療被ばくをどう考えるか
医療において検査治療で放射線は必要不可欠な存在です。半面、放射線は健康上の問題も引き起こす危険があります。
放射線被ばくによる確定的影響はそれ以上浴びないことで防ぐことができますが、確率的影響は放射線被ばくが増えれば増えるほど障害の発生リスクが高まります。
医療被ばくを適切にするためには、WHOがコメントしているように放射線防護文化を向上させることが必要です。
それには医療者任せにするのではなく、医療を受ける方が積極的に防護する必要があると思います。
放射線を使用した検査治療には、実施の正当性と防護の最適化が医療における放射線防護の二つの柱です。防護の最適化については医療者に任すしかありませんが、実施の正当性についてはこのようにしたらどうでしょうか?
それは質問です。
「私は放射線被ばくを最小限にしたいと考えています。その検査は放射線を使いますか?放射線を使わない方法はないですか?」
医療は医療者任せにするのではなく、問題を解決したい方(検査治療を受ける方)の積極的な参加が必要だと考えています。
被ばくによるがんリスクを比較検討することで、過去の被ばくの重大さ、今後の被ばくの許容量、などを判断できる。
放射線にかんして多くの人が抱いている恐れは、実際のリスクに相応だとは言えない。私たちは誰もが普通に、居住地や職業に応じて実にさまざまな線量の放射線を浴びている。だがその範囲内で、健康への悪影響を示すデータはほとんどない。
個人として注意すべきは、私たちのほとんどが無視している放射線、すなわち医療処置で浴びる分である。私たちが毎年浴びている放射線の半分は医療処置によるもので、そのうち三分の一から半分は不要かもしれない。担当の医師には検査を勧める理由、リスクと利益の兼ね合い、浴びることになる線量を確認しよう(こうした用心は、放射線絡みに限らずあらゆる医療検査や処置に当てはまる)。
電離放射線を浴びるたび、がんリスクはどれほどわずかでも高まるので、どのような放射線検査にも実施するうえで正当な理由が必要だ。結果に利用価値がある可能性の高い検査は正当化できるだろう。だが、診断や治療に対する実利がないなら正当化できない。医師や歯科医に放射線検査を勧められたら、その目的、自分にとっての利益、浴びることになる線量を確かめるべきだ。そうした情報を知ったうえで、勧められた検査の利益とリスクの兼ね合いが適切か判断すればいい。
『放射線と冷静に向き合いたいみなさんへ』
ロバート・ピーター・ゲイル&エリック・ラックス著(早川書房) より引用
放射能や化学的発癌物質を少量ずつくりかえし摂取すると、正常な細胞の呼吸作用が破壊され、エネルギーが奪われる、という。そして、一度こうした状態になると、もうもとへはもどらない。
たとえば、ネズミでは短く、発癌も早い。人間の場合は長く(何十年という時もある)、悪性腫瘍はゆっくりと進行する。
『沈黙の春』 レイチェル・カーソン著 より引用
不整脈治療では放射線が使用されます。
治療と放射線の関係を知ることは、適切な選択につながります。
近年、放射線を使わないアブレーションという選択肢が広がってきました。
その背景には「被ばくを避ける」という考え方と、技術の進歩があります。
では、実際にどのように行われているのでしょうか。